奥秩父・笛吹川東沢釜ノ沢東俣遡行−甲武信岳-雁坂峠-川又

2007年8月猛暑、沢に「涼」を求め、富士の見える静かな奥秩父の稜線を歩きました。

笛吹川東沢釜ノ沢東俣遡行

[山行名]

2007夏山:奥秩父・笛吹川東沢釜ノ沢東俣遡行−甲武信岳-雁坂峠-川又

[日 程]

2007年8月11日朝発−12日夜着(一泊二日)

[山域・ルート・行程]

  8月11日 中央線普通列車→JR 塩山駅→(タクシー)→西沢渓谷入口(ゲートまで)
      →笛吹川東沢 → やげんの滝上広河原 ⊿泊
  8月12日→釜ノ沢東俣遡行 → 甲武信岳 → 破風山 → 雁坂峠 →
      →突出峠 →川又 →(バス)→秩父湖→秩父鉄道三峰口駅

[参加者]

ゴント含計2名

[天 候]

 晴(下山時に若干ガス)

[山行メモ]

  • JR中央線塩山駅からの西沢渓谷行きバスの始発が遅い。同行者(相棒)の脚では、本日の予定の場所まで行けないだろうと思っていた。マラソンで鍛えているけど、沢のような不整地ではスピードが遅い。ここは時間短縮でタクシーに乗る。6300円程度。ちょっと高いけど仕方ない。ゲートまでは入れる。
  • ゲートから林道を歩いて西沢渓谷へと行く二俣の吊り橋を渡ったところで、東沢右岸から東沢の河原へと降りる。オジサンがテントを張って一人、留守番している。上で沢登り集中(登山)でもやっているのだろう。「このあたりから道はないよ、河原沿いに行って途中から左岸にあるよ」と教えてくれた。10年ぐらいまえに、乙女の滝のアイスクライミングで来たのだけど、すっかり忘れている。
  • 河原を少し歩くとすぐに徒渉があるので、全装備装着して、沢スタイルにしてしまう(普通のわらじだと巻き道で傷むから履かないのだけど、化繊のニセわらじなので、どうってことなかった)。
  • 左岸の巻き道を絡みながらズンズン歩いていき、山の神へ。このあたりから沢旅らしくなる。前にパーティが一組、後ろから一組来て、抜きつ抜かれるしつつ遡行していく。思った以上に距離がある。
  • 魚留滝。今日の一番の難関。落口右岸のスラブの数歩さえフリクションで登れば問題ないんだけど、ザックが重くて背負っては登れない。空身で登ろうとしたら、地下足袋+わらじが滑ってしまう。まいったな、運動靴、裸足で登るか? 時間がかかりそうなので、後続していたベテラン風二人組さんに先に行ってもらう。トップは軽い荷物なのでそのままサクっと登り、お助け縄をサッと出して後続を確保して、すんなり上がっていった。「ロープ使います?」というありがたいお言葉には甘えず、自力突破する旨伝えて、先に行ってもらう。ズレていたわらじを直して、再度挑戦したら上がれた。木にロープをセットし、相棒にはゴボウで上がってもらう。ゴボウでも最初の一歩が面倒なようで、ショルダーで肩に立ってもらう。次に自分のザックを担いで上がる。なんだかんだと、もたついてしまった。
  • 千畳ノナメ、爽快の一言。花崗岩のスラブに水がほとばしる。ここでのんびりすべきだったな、と今思うけれど、緊張していたせいか、さっさと通過してしまった、もったいない……その後の滝は巻いていくが、ナメの滑りやすいところもあって、相棒は少しビビっていた。相棒はちょっとした滝の乗り越しで、リーチの違いからか、膝を使って立ち上がることもあり、帰ったら膝がアザだらけになっていた。こちらは、魚留滝の最初の一歩ですべって、肘をちょっと大根おろししただけ。地下足袋は足底マッサージが強力だった。荷物が重いときは渓流フェルト底靴のほうがいいのかもしれない。噂によれば、地下足袋にフェルトソールを貼り込む方法もあるらしいが……
  • 広河原着は16時過ぎ。先行パーティ2組はすでに天張っている。こちらはわずかに上流で適地を確保。この後、1パーティが現れる。今夜は全部で4パーティらしい。もっと多いかと思ったけれど、中央高速が渋滞しているお盆の頃は、入りが少ないのかもしれないと思った。飯を食べてぐっすりと眠る。防寒用の長袖+シュラフカバーだけで充分。
  • 翌日、03時半起床05時10分出発。沢のツメでどのくらい時間がかかるかわからない、早く出立したほうがいい(案の定、少しハマった)。しばらくゴーロ歩き。水が冷たい。沢とはいえ、昔にあった旧道も所々交差し、踏み跡が多いので迷うこともない。ひたすら登っていく。滝は基本的に巻いていく。水師沢出合付近で、サイトしている男性が一人。追い越す。
  • 水師沢出合二俣正面の木の幹に看板が出ている。もちろん、右へ。
  • 沢を上がっていくと、右上から大きく崩壊したザレた沢状(木賊沢?)が落ち込む。上部には稜線が見え、明るく開けている。水は流れておらず、崩落のガレがそのまま押し出している。左手の沢の本流(と思われる沢)は10m程度のナメ滝となって左に屈曲しながら登っている。落口は見えないので、さらに上部にナメ滝が繋がっているようにも思える。木賊沢出合のはずだけど、持参した遡行図と、実際の地形が明かに違う。2万5千分の1地図に書き込んだ沢筋の線とは合致するのだけど、おかしい。自分の目と勘、2万5千分の1地図を信用するしかないのだけど。最初は、下の沢の分岐で選択を間違えてしまったのではないか、一本東寄りの沢に入ったか、と思った。
  • ナメ滝をシャワークライムして登ったほうがいいのだろうけど、相棒は空身でも時間がかかりそうだ。ならば、巻いてしまおう。木賊沢(らしき沢)と本流(らしき沢)との中間にあるヤブの小尾根を直登する。取り付きは緩いガレ場状で、踏跡がしっかりあるが、直上すると踏跡がなくなってしまう。登路はおそらく、もっと右側に回り込んで、ザレを登って大高巻きしていくのだろう。しかし、こんなザレた場所(木賊沢らしき沢)は落石の巣じゃないか、危険だ、全力で通過すべき類の場所だ。そう思って、ここはザレを登らず、ヤブ尾根に逃げるべきだと判断する。それで、ヤブ尾根を登っていき、できるだけ本流の沢から離れないように滝の落口を狙って左へとトラバースしようと試みるが、踏跡なし。そのまま踏跡薄い稜のヤブを漕いで上がっていく。そうこうするうちにずいぶん高く登ってしまった。沢の下のほうで後続者が見えたが、こちらがヤブ漕ぎで奮闘しているのを見て、「もしかして沢が違うのか?」と思ったのだろうか、沢を降りていった……(あの……降りちゃいけません、この沢で正しいんです)。左にトラバースして、本流(らしき沢)に戻らないといけないのだけど、急傾斜の小ルンゼ状のザレが落ちていて、それを渡らないと、本流へと戻れない。ザレ沢を横切る踏跡が見あたらない。それでさらに上がっていく。ヤブ尾根でもなんでも漕いで甲武信の稜線に出てもいいや、水の補給できないのはつらいが……と思っていると、細いながらも踏跡らしきものが左手に見えた。踏跡は、幅数メートルの急傾斜のルンゼ状のザレを横切っている。ここが本日の核心。うーん、これはかなり怖いな。一歩足を出す。足場はある。飛び石風に行けば、バランスが保てるし、先は樹林で安全。ロープが必要になるな、と考えていたら、相棒が、「もっと上に道が見える」とのこと。見上げると、ここよりはマシな踏跡が見えた。ルートファインディング失敗だ、情けない。戻って、上の踏跡に出てトラバース、問題なし。樹林帯を通過し、樹林にある小沢でポリタンに水を汲む。この時点で、ほんとに本流に戻りつつあるのか、確信が持てなかった。合計4リットル、完全補給する。こうなればもう、ヤブ漕ぎ直登木登りなんでもやります。しばらく行くと、踏跡が集まり、確信に変わる。標識もあった。ほどなくして本流へ。
  • あとは快適にトヨ状になった沢の階段状ナメ滝をひたひたと登って行く。まさに源流。甲武信小屋の水場タンクまですぐだった。少し登って稜線に出て、甲武信小屋で休憩。
  • 空身で甲武信岳頂上往復。朝、雲一つない快晴。奥秩父の山並みの向こうに、くっきりと富士山、南ア、八ヶ岳、北ア……が見えている。暗い井戸のような沢から、光量に溢れる稜線に出たこともあり、解放感に満たされる。
  • 8時を過ぎた、先を急ごう。甲武信小屋から笹ノ平避難小屋、西・東破風山、雁坂嶺と来て、雁坂峠へ。思ったよりずっと長い距離だった。丹沢の塔ヶ岳稜線ぐらいかと思っていた。大間違いだ。展望はいいし、道もよい。でも、疲れが出てきた。ザックが重くて暑い。夏の休みだというのに、前から来るのは2パーティのみだった。標高は2000m超えているのに、アルプスの山とはエライ違いだ。
  • 雁坂峠ではトレイルランをやっている人がいた。9月中旬、スポーツエイドジャパン主催で、山梨-雁坂峠-川越の秩父往還140kmレースが行われる。トレランでは有名な場所らしい。
  • 雁坂小屋に降りる。まだまだ先は長い。地図を見て、まだこんなにあるのか、と思う。机上の計画と実際は違う。小屋着があと30分遅れたら、登り返して、山梨側に降りようと思っただろう。川又に降りてもバスがない。タクシー呼んだらいくらかかるかわからない。
  • 雁坂小屋の小屋主に「熊は出る?」と聞いたら、熊はいるけど人間は喰わないよ、という話だった。でも、なんとなく、最近は怖いという印象がある。相棒はザックに鈴を付けているので、先に気づいてくれるだろう。この小屋の雰囲気は、昔、バイトしてた小屋の素朴な雰囲気に似ていて、落ち着く。
  • 秩父往還の古道を川又へと降りる。延々と続く巻き道の水平道。よくこんな道をつけたものだと思う。美しい樹林の中のフカフカした道をズンズン歩いていく。長い、長い……少しずつ下っていき、気温も少しずつ上がっていく。暑くなって汗が噴きだしてくる。3時間半も歩いて、すれ違ったのは1パーティのみ。下れば下るほどバテてくる。ようやく国道に出て、少し歩くと川又の旅館・売店があり、すぐ先にバス停があった。16時のバスに間に合わず、17時50分のバスになってしまった。ここの旅館の風呂にも入れてくれるそうだけど、あまり時間もないし、売店で飲み物を買うだけにする。
  • バスは栃本の集落を過ぎて秩父湖終点。ここでバスを乗り換え、三峰口駅へ。途中、「道の駅」で下車して、温泉に入る予定だったけど、時間がないので、通過することに。残念。もっと早い時間に降りて来られれば、汗を流して打ち上げしてからバスに乗って帰ることもできただろう。
  • 秩父鉄道三峰口駅から御花畑駅下車、歩いて西武秩父駅へ。駅前のトイレで汗を拭いて着替えてしまう。ともかく腹が減った、何かエネルギーに変わる、炭水化物やたんぱく質が豊富な、カロリーの高い食べ物を食べようと駅前を探すけれど、あるのは蕎麦屋とラーメン屋。秩父駅に併設されている飲食店街は20時前に閉店。唯一やっていたのは、改札脇のビアガーデンなんだけど、これも20時半にはオーダーストップ。ラーメンはさすがに暑いので止めて、蕎麦屋で蕎麦を食べる。それなりにおいしかったけれど、もの足りない。沢登り計画で食料も軽いものにしたので、腹が減りっぱなしだった。蕎麦屋でトンカツ定食出してくれないですよね。山から下りたら何が食べられるのかは、温泉よりもちゃんと調べておいたほうがいいな、と思ったのでした。

[計画について]

奥秩父で「ミニ沢旅スタイル」が実現できた。

当初、JR中央線の夜行列車ムーンライト号で北アに行こうと思ったのだけど、女性専用車両を除いてすべて指定席が埋まっていた(1週間前)。
それまで漠然と考えていた夏山計画は吹っ飛んだ。
上高地の奥の徳沢園に天張り、相棒は蝶へ、こちらは3000mの稜線をランニングしよう……ダメか。。

今夏は仕事も忙しいし、夏山断念か? と思ったのだけど、山に行かないと煮詰まる、短くていいから、ともかく行こう、土・日の一泊二日でもいいから行くことにする。

それにしても暑い、暑いとなれば、沢だ。毎年、そう思ってる。毎年、その思いは強くなる。
日本。東京近郊。埼玉。温暖化しすぎだ!

沢はいい、沢大好き。夏は沢。高校生のときに双六谷を遡行して黒部五郎に抜けて、夏=碧緑の沢の印象がある。

でも、登攀的要素のある怖い滝は難しくなった。練習が足りない。
ゴーロ歩き結構。沢旅がしたい。徒渉を繰り返して好きな所を歩いて登りたい。地下足袋+わらじで。夜には焚き火して。

滝登りじゃなくて沢旅を考えると、巻き道もしっかりしてる東沢釜ノ沢に落ち着いた。甲武信に登れば、展望もいい。塩山から西沢渓谷。朝、出発して、塩山からタクシーで行っても、相棒が慣れてないので、一日じゃ詰めきれない。翌日に甲武信小屋に出て、また塩山に降りる? なんだか……おもしろくない。

帰りは中央線の塩山に降りず、破風山を越えて、雁坂峠から秩父側に降りればいい。秩父往還の古道。沢の滝では時間がかかっても、ランニングで鍛えてあるから、登山道で不安はない。降りた川又から秩父鉄道三峰口駅の間にはスーパー銭湯がある。秩父なら、西武池袋線で早く帰れるし、都心の人混みで嫌な思いをすることもない。

「沢」「ビバーグ」「日本百名山」「秩父往還古道」「温泉」「早く帰れる」……これならいいでしょ。

地下足袋だけは買い換える必要があったけど、後の必要な道具はすべてある、手持ちの装備と食糧だけで、すぐに実行できた。

奥秩父・笛吹川東沢釜ノ沢東俣遡行−甲武信岳-雁坂峠-川又」への3件のフィードバック

  1. 撤退癖

    ごんと様、初めまして。薮から棒で失礼ですが、お願いがあります。実は先日東沢釜の沢に行ったのですが、情けない事に鶏冠谷出合を過ぎたところから、どうしても山の神に通じる山道へのアプローチが見つからず、子どもが一緒だった事もあり、危険と考えて断念して、「西沢渓谷巡り」に計画変更としました。私自身、沢は30本は登っているし、東沢は20年ぐらい前に3回行っていました。でもこの有様で…。お時間のあるときでよろしいので、どうか、鶏冠谷出合から後、山道に入るきっかけを教えていただく訳にはいかないでしょうか?どう考えても左岸のアプローチが見つかりませんでした。赤いテープはあったようですが、取り付くのは険しそうでやめてしまいました。来月リベンジしようと考えているので、どうぞよろしくお願いします。お忙しいところ申し訳ありません。

  2. gont

    はじめまして。読んでくれてども。私も「危ないときは止めます派」です。
    沢は特に怖いですよね。逃げられないし。雨は怖いです。花崗岩の沢だし。
    ところで、巻き道なんですが、すいません、よく覚えていないんです。詰まったら左岸に上がる、という印象しかないんです。けっこう迷う人は多いのかもしれません。急いでいて後続で人の背中を見てる場合、ホラノ貝のゴルジュに気づかないで巻いて上がってしまう人もいるでしょう。
    基本的には高く巻いてますよね。低くはない。しっかりと巻いてる。
    自分の場合は、遡行図を持っていきました。雑誌の『岳人』にあったものだとか、白山書房の本(80年代刊行の古い本)のものです。ネットでもいくつか見ましたが、書いてあることはけっこうバラバラですね。ははは。遡行者によって印象が違うことが多いものです。
    で、最新の遡行図ってないのかな、と思って調べたら、
    『東京周辺の沢』(白山書房=編 A5判293頁 本体2000円(税別))のページに、そのまんま「東沢」の該当箇所が掲載されてましたぁ!
    これをご覧いただければ、問題ないかなーと。できれば購入されるといいでしょう。遡行図って見てるだけでワクワクしますし。。ではでは。

  3. 撤退癖

    ありがとうございます。gontさんによる釜の沢のご報告が最も新しい情報だったので、非常に親近感が沸いて(勝手に、すみません)どうしてもお尋ねしたかった次第です。
    東京周辺の沢、私も持っています。大変重宝しています。
    これからも楽しい沢登りの記事に期待しております。

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