*「北アルプスの山のカード[焼岳(北峰)]」にルートを記入
いつかは登りたいと思っていた謎の笹の尾根。38年後の完登。
3月中旬を予定していた山行が約1カ月遅れて、4月残雪期に。今春の高温と雨で雪が融けてしまい、尾根の前半が藪漕ぎに。
【日 程】 2023年4月07日㈮-08日㈯(一泊二日)
【山 域】 北アルプス南部
【ルート】 焼岳上堀沢・峠沢中間尾根→同南峰〜同中掘沢右岸尾根下降
【メンバー】 ゴント(単独)
【行 程】
◆2023年4月07日㈮
□松本BTより濃飛バス 中の湯着 13:13
□釜トンネル、上高地トンネルを抜け、焼岳上堀沢・峠沢中間尾根下部にアタック・キャンプ(AC)設営
□ルート偵察
◆2023年4月08日㈯
AC起床 03:00 発 04:00
焼岳上堀沢・峠沢中間尾根を登る
難所の土壁ナイフリッジ地点 着 07:20
焼岳北峰のコル 着 09:00
北峰・南峰のコルから南峰を登りコルに戻る 着 10:00
中掘沢右岸尾根下降、上高地着 12:00
ACテント撤収 発 13:00
中の湯バス停 14:30
濃飛バス 発 15:05
松本BT 着 16:23
(列車で帰宅)
ルート概要、記録、感想
*ご注意 このルートは一般コースではありません。極めて危険な箇所があります。登る判断をし、行動し、その結果に起きたことは、その判断をした者が引き受ける必要があります。
- 3月中旬に狙っていたこのルート、仕事の都合で順延になり、4月に。春の高温と雨で雪が融けてしまい、状態は残雪期、それでもいいから行けるだけ行ってみようと出発。もちろん、焼岳の火山性地震の状況は日毎に把握しており、活発化していないことは確認済み。
- まだ上高地は開山していない。中の湯のバス停に降りると暖かい。釜トンネル内はまだ冬のように冷たい。大正池の浚渫の土砂を運ぶダンプカーが2連で走り抜けていく。
- 2本のトンネルを抜けて大正池の手前の橋を渡って上掘沢の河原を上っていく。ここもほとんど雪が融けてしまっている。上高地内でのテント設営は禁止されているので、上堀沢・峠沢中間尾根の下部まで上がってアタック・キャンプ(AC)とする。
- わずかに雪は残っているけれど、目の前は笹藪…国土地理院地図にはいちおう、林道らしきものが引かれてはいて、確かにその道跡は感じられるけれど、その道は既に笹に覆われていて道の体をなしていない。明日は早朝の暗闇のなか、ヘッドランプをつけて、雨露でビシャビシャの笹藪を独りで藪漕ぎして登っていくのか…気持ちが萎えてくる。
- ほどなくして風雨が強くなってきたのでテントに引き籠もる。夕方から雨足が強くなり、本格的な雨になる。これでは無理か、と思いながらも、雨雲レーダーをみると夜半に寒冷前線の雨雲が走り抜けることがわかる。明日の朝は気温下がり晴れるはずだから、アタックは決行しよう。ところが知り合いに送ってもらった気象予報だと、寒気が入って昼から天候が不安定になり雪になるという。本当だろうか? その可能性はある。なら予定通り4時に出て早めに戻ってこよう。
- 翌朝は曇り、下が雪面の藪漕ぎで尾根を登っていく。消耗はするけれど雨具、スパッツ、アイゼン、工業用の表面がゴムの保温防水手袋で完全防水しているので濡れることはない。藪との格闘をしばらく続けると、ようやく藪を埋めた雪面が繋がるようになる。
- 尾根は次第に傾斜が増し、そして左右が狭まってくる。雪は融けて無くなってしまい、笹藪と灌木混じりの狭いリッジ状の尾根になる。3月に来ていれば、ここは雪稜になっていたはず。
- 尾根が細く切り立っていく。火山灰と火山礫が重なった火山の地層なので左は上掘沢、右は峠沢から浸食が進んでいく。
- 登っていけばさらに尾根幅が狭まり、2mくらいになり、そしてさらに狭まり、最大の難所が現れた。あまりにも狭い稜線。登れるだろうという予想は甘かった。十分に渡れる程度には広い尾根ではないか、などと甘い期待を抱いていたけれど、実際には片足しか乗らない幅の、土砂のナイフリッジになっていた。わずか3歩だけ、その土砂のリッジを進めば、上部の幅の広い尾根にたどり着けるのがわかる。どうするか。引き返すか。しばらく考え込む。
- この土砂のナイフリッジ、左右の崖の高さは10m以上あり、下部は急峻なザレとなってさらに下に向かって落ちている。その前後の稜線の左右の下の土砂は抉れてオーバーハングになっている。両側の沢は急傾斜で不安定な浮き石と土砂が堆積していて、いつでも大崩落しそう。冬期なら沢は雪に埋もれるから、猛烈なラッセルで沢を詰められる可能性もあるけれど、沢筋は急峻で雪が不安定、雪崩を誘発して埋まってしまうかもしれない。
- そのまま平均台のような土砂のリッジ上をバランスをとってイ〜チ、二〜ノ、サァン! とスタスタ踏んで通り抜けられるようには見えなかった。まずはピッケルのブレードで土のリッジにステップを切り、体重を乗せても大丈夫なのかを探ってみることにする。これで崩れそうなら、引き返そう。土のリッジ右側面のわずか下方に、根気よくステップを削り出す。リッジの真上では明らかに崩れそうなので。そして右足を降ろして、恐るおそる体重をかけてみる。崩れない。さらに体重移動し乗り込めた。そこから、さらに二歩目の左足用のステップを切る。二歩目を左足で乗り込む。ここも崩れない。二歩目からなら、上の尾根に両手先が届く距離だ。このとき、一歩目のステップの左側が緩むように感じて、素早くピッケルとバイルを上の尾根の土に突き刺し、二歩目のステップの左足にすぐに体重を移して、そのまま間髪を入れずエイヤと身体を両腕で引き上げ、両足のアイゼンの前刃の三歩目で上の尾根に移る。しばらく心臓の鼓動が鳴り止まなかった。振り返ると、一歩目のステップの左側の側面がわずかに崩落していた。危なかった。この場所はいつ崩壊するかわからない、夏の豪雨や火山性の地震で崩れ去ってしまうかもしれない。
- この難所を過ぎてもしばらく傾斜の緩い、細い尾根が続き、疎らな灌木を頼りに登っていく。次第に幅広い尾根が近づいてきて、その尾根に合流する。ここまできたら一安心。けれども霧にまかれて現在位置や登る方向がよく見えない。
- しばらく待っていると、霧が少し晴れて右上に北峰ドームが姿を現した。その左側のコルを目指して登ればいい。時に沢筋の凹面の雪面を、時に岩塊と土砂の緩い尾根を登っていく。そこそこ傾斜があるので足首が痛くなる。また、靴紐の締め方が悪かったのか、左足の踵が擦れてマメができてしまった。締め直すと痛みは消えた。
- 北峰ドームの左側のコルに到着。少し休み、南峰へと向かう。北峰の池側(南峰側)の裾に被さってくる噴気を息を止めてやりすごし、池のよく見える南峰との間のコルに移る。
- 南峰はこの上すぐだが、コルから直接、登るにはあまりに傾斜が急なので、溶け始めた正賀池に降りて、左側から回り込み、火口縁の対岸のコルに上がって火口縁を左回りに縦走、南峰に達する。帰りは南峰から正賀池へと降りる雪のスロープをダイレクトに下る。昨日は雨が降って、雪の斜面はガリガリに凍っているので、アイゼンワーク、ピッケルワークを慎重に行う。
- 池から登ってコルに戻ると、空が雲に覆われ、小雪が舞い始めた。早く降りよう。コルから中の湯方面へカール状の雪の斜面を下っていく。上高地側へと下降予定の尾根はまだ視界が効いて見える。まだ一度も降りたことがないが、視界が効けば降りられる。視界が効かないなら中の湯に降りる計画。一昨年の3月がそうで、だいぶ疲労してしまい、安全策をとって中の湯に降りて林道を下り、さらに釜トンを登り抜けて上高地に戻った。かなり遠回りになる。
- 中の湯へと降りるカール状の斜面の途中で少しずつ左の斜面に移り、左の尾根に乗り上げて、さらに左へ、左へと焼岳を回り込んでいく。中掘沢の右岸尾根に達っしたら、そのまま尾根を下っていく。ワカンなしでも、あまりもぐらないし、歩きやすい。バックカントリースキーの跡や、同じように登下降したワカンの跡が残っている。
- 迷ったら左へと移るようにするが、左に寄りすぎてもいけない。ルーファイしながら降りていく。次第に雪が少なくなり、笹藪が出てくる。最後の傾斜の急な斜面では笹藪がひどくなり、かなり消耗する。下降地点は予定通りで、中掘沢と上掘沢の出合付近だった。
- そのまま上掘沢沿いに登り、ACに戻る。焼岳頂上からちょうど2時間で降りて来られた。このコースは焼岳からの下山には最適だ(樹木に結んだピンクの紐といったコースの指示は一切、ないので念のため)。雪が本格的に降ってきて、昨日とは打って変わってまた冬に逆戻り。ACに戻り早々に撤収、パッキングして、出立する。林道に出て、ダンプカー行き交う釜トンを抜けて、中の湯バス停へ。バスに乗り松本駅へ。電車で当日中に帰宅。
難所を振り返る
上高地側の一般登山道から見た難所