焼岳上堀沢左ルンゼ、霞沢岳西尾根(春登る2、20210318-20)

GWのような条件に恵まれ二連登。

焼岳では一人の登山者とも合わず、霞沢岳では19人とすれ違う。

【日 程】 2021年3月18日㈭〜20日㈯ 二泊三日
【山 域】 北アルプス南部
【ルート】 焼岳上堀沢左ルンゼ〜焼岳北峰〜中の湯、霞沢岳西尾根往復
【メンバー】 ゴント(単独)
【行 程】
◆2021年3月18日㈭
□松本BTより濃飛バス 中の湯着 12:20
□釜トンネル・上高地トンネルを抜け、霞沢岳西尾根下部にアタック・キャンプ(AC)設営
□至近の大正池から焼岳のルートを観察。また上堀沢へのアプローチを検討するため対岸に渡り広い扇状地を偵察して戻る
*翌日、霞沢岳西尾根を予定していたが、天候やルートの状況を考慮し、明日は焼岳を先に登ることにする

◆2021年3月19日㈮
AC
起床 03:00
発 04:20
 焼岳上堀沢右岸斜面を登る
上堀沢左ルンゼ上部トラバース地点 着 05:00
上堀沢左ルンゼ終了点のピーク 着 09:30
焼岳北峰 着 10:00
 中の湯ルートを下る
中の湯 着 12:40 発 13:00
安房峠の林道を下り、釜トンネル・上高地トンネルを再び通過
AC 着 14:40

◆2021年3月20日㈯
AC
起床 03:00
発 04:20
 霞沢岳西尾根を登る
霞沢岳頂上 着 08:40
 同ルート下降
AC 着 11:20
 AC撤収
発 12:20
 上高地線の道路に出たところでアイゼン着脱、荷物整理
発 12:50
上高地トンネル・釜トンネルを下りそのまま坂巻温泉まで下る
坂巻温泉 着 13:45
 温泉に入る
濃飛バス 発 15:02
松本BT 着 16:20
(列車で帰宅)

概念図

ルート概要と記録

焼岳上堀沢左ルンゼ〜焼岳北峰〜中の湯

*ご注意 このルートは冬の沢であり、当然ながら雪崩の危険がある。気温、雪の状態などの諸条件を慎重に判断する必要があり、その判断に迷う時は足を踏み入れてはいけない。厳冬の積雪時に踏み込む者はいないだろうし、春からの残雪期であっても登高のチャンスは少なく、また、危険を伴うだろう。そのことを充分に留意し、すべて自己責任でのチャレンジになる。

大正池の対岸に渡る橋から上堀沢上部トラバース地点まで

  • このルートは、上堀沢左ルンゼの下部は登らず、右岸の樹林混じりのなだらかな雪の斜面を登高し、胸壁が立ち上がるところで、上堀沢左ルンゼ上部へと右にトラバースし、沢の上部を可能な限り早く抜ける。上堀沢左ルンゼを下部から登ればそれだけ時間もかかり、雪崩に遭う可能性も高まる。その危険を避けるため沢の上部だけを狙う。
  • 上堀沢左ルンゼ上部トラバース地点までどのようにルートをとるか。地図や写真で予め検討する。また当日は早朝にヘッドランプを点灯して登高していくので、前日には必ず偵察し、トレースをある程度、つけておく必要がある。そうしないと緩斜面の雪原で方向を間違えてしまう。
  • 大正池の対岸に渡る橋から30m行くと、石積みの堰堤が左側に顔を出す。その堰堤手前から左の樹林に入り、さらに左に少し行けば、上堀沢下部の流路にあたる広い雪原の河原が表れる。この広い河原の雪原の沢筋を忠実に、上流に向かってしばらくは登っていく。この時、雪原をワカンを履かずに歩いて、靴が足首まで潜らない程度に雪が締まっている状態で、快調に歩けることから、翌日のアタックに決定した。
  • 河原の雪原は次第に左へとカーブし、いくつかの押し出された大岩の間を通過すると、正面に大きな堰堤が見えてくる。この堰堤の手前で左の樹林の斜面(上堀沢左ルンゼの右岸)に登り、それ以降は、上堀沢左ルンゼと並行して上部のトラバース点まで斜面を登っていくことになる。
  • 前夜の気温はマイナス5℃くらいか。テントのなかでもポリタンの水が少し凍った。
  • 4時20分スタート。ヘッドランプを点灯して前日のトレースを追う。
  • 堰堤の先で右岸の樹林の斜面に入る。斜面には浅く窪んだ沢が複数あるが、その沢を伝っていくと上堀沢から離れて中堀沢のほうへと曲がってしまう。上堀沢の位置に注意しながら、少しずつ右へ、右へと斜面を登っていく。
  • しばらくいくと雪が増えてくる。ワカンをつける。樹林が切れて傾斜が増してきたら、右の上堀沢左ルンゼへと近づくようにする。右岸は尾根状となってくる。
  • 上堀沢左ルンゼ上部トラバース地点は胸壁の立ち上がる下部にあり、そこから上堀沢左ルンゼへと容易にトラバースできる。ここで雪の斜面の状態をよく観察する。雪の表面は固く締まっており、気温が低い朝のうちなら登れると判断して、沢筋へとトラバースする。

上堀沢左ルンゼ上部から焼岳北峰ドーム頂上まで

  • 上堀沢左ルンゼ上部は二つのルンゼ状が並行して流れているが、低いインゼルを越えれば容易に行き来できる。右のほうが幅が広く本流で、左岸の壁からの落石や落雪の危険がある。左は細く、途中に小さな滝があるほか、上部は水蒸気の噴気が出ている地点があることから、ここは融雪が早く、積雪の量によっては雪崩の危険がある。
  • ワカンを履いたままトラバースして右斜上していくと左のルンゼの小滝が見えてくる。この滝の氷雪を登るのもおもしろそうだと思うが、時間を喰うと判断し、右の本流の際までトラバースし、ワカンを脱いでアイゼンのみにして、そこから直上する。右と左のルンゼを分ける、低いインゼル状の岩の周囲は融雪が進み、シェルントが開いている。下手に近づくと踏み抜いて事故になる。融雪が進むのが、地熱や水蒸気によるものかは不明だが、焼岳は火山であり、融雪が進みやすい特殊な条件があることを常に頭に入れておく必要がある。
  • この後は右と左のルンゼ状を分ける、わずかに張りだした尾根状の雪面をひたすら登る。ピッケル2本にアイゼンのキックステップで登る。時にクラストし、時に膝まで潜る。雪面の状態は一様ではない。傾斜は緩いが、滑落したらすぐにピッケル制動で停止できないと助からない、という程度の傾斜。
  • 雪崩に遭いたくないので、可能な限り素早く登っていく。呼吸が苦しい。上部の奥壁が見えてきたら、その裾を左へと回り込みつつ、沢の終わる頂上稜線へと向かう。
  • 短時間で抜けるため、左右へのトラバースはしないで、できるだけ真っ直ぐに登る。左のルンゼの上部には、噴気帯があり、粘土の地面が露出している。大量の降雪があっても、ここで雪が溶かされ、雪崩の発生地点になっているに違いない。
  • 頂上稜線もまた地熱があり、雪が融けている。焼岳北峰へと続く稜線は完全に雪が融けて粘土状の地面が露出している。こちらの尾根を登ったほうがよい。下手に雪面を行こうとすると、地熱で融けた穴を踏み抜いて事故になる。稜線の途中には、火山の状態を知るための地震計が設置されているので近づかないようにする。
  • 焼岳北峰ドームに取り付くコルに降りるには、途中で右側の斜面から降りる。コルからは水蒸気の上がる北峰ドームの取付へと続く緩い雪稜を登る。
  • 北峰ドーム取り付き付近は地熱が高く、雪が融けてしまっている。コルからの緩い雪稜から、対岸の岩へと移る地点には充分な注意が必要。雪稜の端は下からの水蒸気で融けてシェルントになっている。これに気づかずに踏み抜いてしまい、背丈ほどの高さを落ちる。あやうく怪我をするところだった。この山行でいちばん危険な箇所だった。
  • 北峰ドーム頂上を往復する。夏の焼岳頂上なら1985年からほぼ毎年登っていたけど、積雪期は初めて。36年(!)もの歳月が過ぎていた。

焼岳北峰から中の湯ルート下山、AC帰幕まで

  • さきほどのシェルント踏み抜きと、頂上に立てたことでほっとしたのか、急に疲れを感じる。風も出てきて寒いのですぐに引き返し慎重にコルへと降りる。シェルント部分は水蒸気の出ている箇所を息を止めて通過し、雪稜には四つん這いで体重分散して這い上がる。
  • 下山ルートはどうするか。日が射して気温も上がっている。雪崩を考えれば同ルート下降、上堀沢を下るわけにはいかない。もう一つの下降予定ルートは中堀沢と下堀沢の中間尾根をラッセルして下り直接、大正池出るものだが、下りでもラッセルで苦労しそうで無理だと判断する。さきほどのシェルント踏み抜きの落下で左肩を打撲して痛んで意気消沈したのと、疲れが思ったよりひどい。残るは安全だけど遠回りのルートだが仕方がない。中の湯からジグザグの安房峠の林道を降りて、釜トンを登って戻ることにする。
  • コルからドームの左側をトラバースして、盛大に出ている噴気を背に、正賀池火口湖の縁に降りる。池は雪で埋まった雪原。正面は急峻な南峰でトレースがついているが、今回は疲れていてパスする。次回、また別ルートから登ろう。
  • 中の湯ルートをズンズン降りる。トレースを追えばワカンも不要、さして潜らない。それでも疲労が濃く、ともかく遠く感じる。中の湯に近くなると傾斜が増し、積雪期にここをラッセルして登ってくるのもたいへんだな、と思う。
  • 中の湯前でアイゼンを外し、安房峠の林道をジグザグに降り、冷風吹き下ろしてくる釜トンネル・上高地トンネルを登り抜けて、ようやく霞沢岳西尾根末端に戻ってくる。ちょうど西尾根から下山してきた方と話す。上にテントがあるのに先行者もいないしすれ違わないので心配していた、と。そう思ってくれるのはうれしい。自分も同じように思うだろうから。西尾根も好天ですばらしい登高だったに違いない。
  • 笹藪の急登から尾根に上がってしばらく登り、ACに戻る。ツェルトからマットを引きずり出しアイゼンも履いたまま大の字で寝転ぶ。疲れ切った。放心状態で目を瞑る。しばらくして上半身を起こして樹林の間から正面の焼岳を仰ぐ。あれを登ったのだ、と。

霞沢岳西尾根

*ご注意 冬期の尾根のバリエーションとしてメジャーなこのルート、雪と天候の状態で難しさは大きく変わってくると思われる。今回は降雪後に5日ほど晴天と暖気が続き、雪が落ち着き、また、その間にも複数の登山者がトレースをつけていたから登下降で技術的な難しさや判断に迷う箇所はなかった。しかし降雪直後を想像すると、急傾斜のラッセルでまったく進まないだろう。岩峰では岩のスタンスもホールドも、もちろん残置ロープも埋もれてしまう。急傾斜の雪壁登りは難儀するだろうし、下りは当然ながら懸垂下降になる。登下降に必要な装備とそれを使う岩トレは必須になる。

ACから霞沢岳西尾根から頂上往復

  • ヘッドランプをつけて早朝にスタート。樹林帯の傾斜の急な雪道は踏跡が明瞭でアイゼンを効かしてひたすら登る。昨日の疲労が色濃く残っていて、登っては休み、登っては休みを繰り返す。次第に夜が明け、また展望も開けてくる。1時間でどのくらい高度を稼いでいるか、高度計を見て、頂上到達までの時間を計算する。
  • 2300mくらいで森林限界となり、右に雪庇の張り出す短い雪稜を渡れば、岩峰の下に着く。雪がほとんど融けて、岩のおおまかなスタンスやホールドが露出している。また、残置ロープも出ていた。ロープには触らず登っていき、岩の出ている難場は、微妙なスタンスの立ち込みを二歩くらいで突破、あとは階段状のスタンスで問題なし。ただ、ここが雪と氷で覆われているとなるとそうはいかないだろう。
  • 岩場が終われば頂上に続く稜線、ビクトリーロードになる。晴れた空、風も弱く、すばらしい展望の快適な登高。一方、悪天で風が強い時はそうとう、消耗しそうだ。
  • 頂上には長くは留まらず、すぐに下山を開始する。途中で下から登ってくる登山者と次々にすれ違う。坂巻温泉や中の湯温泉に車を止めさせてもらい、同じように早朝に出発してきた人たちだ。数えると19人もいて、途中の尾根ではエスパースのテントを2張り見かけた。外にタワシがヒモでぶら下げてあった。そう、タワシは重要。
  • ACまでズンズンと降りてきて、ツェルトを撤収。予定より早く降りて来られたので、トンネルを下り、中の湯バス停も通り過ぎ、坂巻温泉まで下る。重荷だが下りなので我慢する。温泉で汗を流す。ジュース等の自販機はあるけど、冬は食べ物の提供はなし。15時のバスで松本BTへ。

写 真

焼岳上堀沢左ルンゼ〜焼岳北峰〜中の湯

霞沢岳西尾根

動 画

装 備

*◇はACにデポ

■登下降用具
□ヘルメット(赤)
□冬山登山用の靴
◇メインザック(グレイ)
□二日目アタックザック(浅黄色)
□アイゼン
□スパッツ
□ピッケル2本
□ストック2本
□予備ロープ(9㎜×20m)
□捨て縄
□ストック
□改造ワカン

■露営・生活用具
◇改造ツェルト(水色)
◇ポール、竹ペグ
◇銀マット
◇エアマット
◇ウレタンマット
◇たわし
◇シュラフ
◇EPIヘッド
◇EPIボンベ小2
◇ライター
◇ローソク
◇コッフェル・コップ・武器(スプーン・フォーク・はし)
◇ポリタン2ℓ
□ポリタン1ℓ

□ヘッドランプ
□ヘッドランプ予備電池
□ナイフ
□コンパス
□温度計
□時計
□地図(全体、詳細2万5千、拡大)
□スマホ
□スマホバッテリー
◇カイロ
◇白金カイロ

□一眼レフ(本体、バッテリー、電池、カード)
□アクションカメラ(本体・バッテリー、カード)

◇ラジオ
□筆記用具
◇ロぺ
□ティッシュ
□ビニール袋
□新聞紙
□医薬品
□計画書
□保険証
□JIRO証
□財布(資金他)
□家の鍵
◇コロナ対策マスク

■ウェア
□インナー上(網シャツ)
□インナー下(ナイロンパンツ、タイツ)
□関節サポーター(防寒用。両肘、両膝)
□ウェア上(化繊山シャツ×2)
□ウェア下(化繊山パンツ)
□アウターシェル上(黄)、下(黒)
□防寒具1(セーター)
◇防寒具2(ダウンジャケット)

□靴下
◇靴下予備
□帽子
□目出帽
□薄手の手袋
□手袋
◇手袋予備

□メガネ
□メガネバンド
□ゴーグル
□サングラス
◇下山時着替え一式
 

食 糧

■1日目
昼:菓子パン2
夜:ラーメン(キャベツ+ソーセージ)、ナッツ、チーズ
■2日目
朝:ラーメン(キャベツ+ソーセージ)
昼:菓子パン2
行動食:ジェル3(100k㌍×3)
夜:ラーメン(キャベツ+ソーセージ)、ナッツ、チーズ
■3日目
朝:ラーメン(キャベツ+ソーセージ)
昼:菓子パン2
行動食:ジェル3(100k㌍×3)
夜:ラーメン(キャベツ+ソーセージ)、ナッツ、チーズ

その他:飴10個、珈琲6、コンデンスミルク、スポドリ2袋、副食
非常食:菓子パン1、ジェル22

【各種照会先】

◆登山届提出先(FAX)
釜トンネル入口登山ポスト (今回はここに投函)
長野県観光部山岳高原観光課 FAX.03-6862-5035

◆山岳警備隊
長野県警察本部地域部山岳安全対策課 電話:026-233-0110(代表)

◆交通機関照会先
濃飛バス高山営業所 0577-32-1160
沢渡共同配車センター 0263-93-3336
アルピコタクシー沢渡営業所 0263-93-2700

【遭難等の緊急連絡事項覚え書き】
□いつ 発生時間
□どこで 発生場所、目標物、名称、確実な場所の通過時間
□誰が 遭難者氏名、服装、生年月日、年齢、職業、連絡先、
□どうしたか 滑落、転倒、落石、道迷い、溺れる、体調不良
□ケガおよび処置の状況
□状態 体温、呼吸、脈拍、嘔吐物、顔色、意識、自力歩行可能か

感 想

  • 天候に恵まれ、雪の状態もよく、予定していた二つのルートを登ることができた。
  • 霞沢岳西尾根の前夜は暖かく、ポリタンの水が凍らなかった。焼岳の前夜は一部凍った。
  • 霞沢岳西尾根のACは往復を考えてもっと上にしたかったが、荷物があまりに重くて尾根に上がってしばらく登った低い地点になってしまった。ただ、大正池側から焼岳を登るならこの地点は近い。上高地は基本的に小梨平にしか張れないが、霞沢岳西尾根と組み合わせればセーフだろう。
  • 相変わらず荷物が重い。測ったところ、水抜きで27kgあった。たった二泊なのだし小物を含めて軽量化を図りたい。大学時代ならいざ知らず、今の体力でこの重量を背負って傾斜の急な尾根を登ることは不可能だ。
  • 焼岳は火山で地熱があり、雪が融けた地点の周辺もまた下が融けている可能性がある。シェルント等の踏み抜きに注意する。
  • 焼岳からの下りは安全のため中の湯ルートを下った。登った沢やルンゼは日が高く昇れば雪崩の危険があるし、スキーを使わずに降りて戻るのは無理だろう。大正池側にダイレクトに下るには、下堀沢と中堀沢の広い中間尾根を降りるのがよさそうだが、傾斜が緩く下りもラッセルを強いられそう。ワカン必携。
  • 未知のルートでは登りの体力、強力な心肺機能と脚力がいる。もっとトレーニングしておくべきだった。
  • お茶の種類を増やす。紅茶と緑茶。なんでもいい。
  • 冬春の昼食メインにパンは無理。喉を通らない。ジェル主体にする。
  • 釜トンネル内は土砂を運び出すトラックの巻き上げる粉塵が舞っているのでマスクをしたほうがいい。
  • 焼岳や霞沢岳にはまだ登ってみたいルートがあるので、このパターンでまたアタックしてみたい。