標高差1000mの一人ラッセル大会。
計画を左右するいちばん大きな条件は自然。
【日 程】 2021年2月19日㈮〜20日㈯ 一泊二日
【山 域】 八ヶ岳南部
【ルート】 ツルネ東稜往復
【メンバー】 ゴント(単独)
【行 程】
◆2021年2月19日(金)
□小海線清里駅 着10:33
タクシー
□美し森駐車場 発11:10
地獄谷の途中から積雪が多くなりワカンを装着、トレースなし
□出合小屋 16:00
アイゼンも装着
□ツルネ東稜下部AC 着16:50
アタック・キャンプ設営
◆2021年2月20日(土)
□ツルネ東稜AC 発05:30
アイゼン+ワカン。トレースなしのラッセル
□同2400m 08:15
□ツルネ頂上 10:00
強風につき頂上を一瞬踏んでツルネ東稜を戻る
□AC 11:20
撤収、下山
□美し森駐車場 着15:10
荷物整理、タクシー迎車
□小海線清里駅 着16:10
【ルート概要】
美し森駐車場から地獄谷出合小屋まで
- 林道を歩く途中から次第に積雪が増え、終点から河原沿いに複数の堰堤を越えていく途中でワカンをつけた。トレースがないのでピンクテープを目印に進む。道迷いの心配はない。
- 渡渉箇所に積雪があると飛石がわからず雪を踏み抜いて靴が水没する可能性がある。一度、水に浸かったが、運良く水深が浅く没することはなかった。
- 出合小屋まで標高差は少ないし、変化に富む風景ではあるけど、やはり遠い。
- 出合小屋先からツルネ東稜取り付きまでの道ははっきりしており、看板も複数ある。
ツルネ東稜
- 取り付きの100mくらいがいちばん傾斜が急。樹林の尾根道を強引に登る。危険なことはないが、重荷だと苦しい。
- 尾根の下部に平坦な箇所があり、ビバーグ可能。かなり上部にも平坦な箇所がある。
- アイゼン+ワカン+ストック+ピッケル。トレースなしの独りラッセルがきつい。ピンクテープを追って過去のトレースらしきところを登る。ルートに迷うことは少ない。
- 頂上稜線が近づくにつれて風が出てくる。赤岳─権現岳の主稜線に出た瞬間に風速20m超の暴風に晒され、耐風姿勢をとらないと飛ばされるところだった。
- あまりの強風に主稜線の登高は諦めて同ルートを下山する。AC撤収後の荷物があり、美し森駐車場までは遠かった。
【写 真】
【動 画】
【装備】
*◇はACにデポ
■登下降用具
□ヘルメット(赤)
□冬山登山用の靴
◇メインザック(水色)
□二日目アタックザック(浅黄色)
□アイゼン
□スパッツ
□ピッケル
□バイル
□予備ロープ(9㎜×20m)
□捨て縄
□ストック
□ワカン
□ツェルト(水色)
■露営・生活用具
◇テント本体(2人用、青)
◇テント付属(ポール、竹ペグ、張り綱)
◇銀マット1
◇エアマット
◇シュラフ
□スコップ
□EPIヘッド
◇EPIボンベ小2
□ライター
◇ローソク
□コッフェル・コップ・武器(スプーン・フォーク・はし)
◇ポリタン2ℓ
□テルモス
□ヘッドランプ
□ヘッドランプ予備電池
□ナイフ
□コンパス
□温度計
□時計
□地図(全体、詳細2万5千、拡大)
□スマホ
□スマホバッテリー
□カイロ
□白金カイロ
□筆記用具
□コンデジカメラ
□アクションカメラ
□ロぺ
□医薬品
□計画書
□保険証
□JIRO証
□財布(資金他)
□家の鍵
◇コロナ対策マスク
■ウェア
□インナー上(網シャツ)
□インナー下(ナイロンパンツ、タイツ)
□関節サポーター(防寒用。両肘、両膝)
□ウェア上(化繊山シャツ)
□ウェア下(化繊山パンツ)
□アウターシェル上(黄)、下(黒)
◇防寒具1(セーター)
□防寒具2(ダウンジャケット)
□靴下
◇靴下予備
□帽子
□目出帽(セパレート)
□手袋
◇毛手袋予備
□オーバー手袋
□メガネ
□メガネバンド
□ゴーグル
□サングラス
◇下山時着替え一式
【食 糧】
■1日目 朝:菓子パン2 昼:菓子パン2
行動食:ジェル2(100k㌍×2)
夜:餅ラーメン、チーズ
■2日目 朝:餅ラーメン 昼:菓子パン2
行動食:ジェル2 夕:ジェル2
その他:飴10個、珈琲、副食
非常食:菓子パン1、ジェル3、ドーナツ
【各種照会先】
◆登山届提出先(FAX)
長野県観光部山岳高原観光課 03-6862-5035
山梨県観光部観光資源課 050-3066-0117
◆山岳警備隊
山梨県警察本部地域課 電話番号:055(221)0110(代表)
長野県警察本部地域部山岳安全対策課 電話:026-233-0110(代表)
◆アプローチのタクシーと料金
高根タクシー(清里駅前) 0551-48-2211
大泉タクシー 0120-382-312
駅前→美し森駐車場 1190円
美し森駐車場→駅前 1730円(迎車)
【遭難等の緊急連絡事項覚え書き】
□いつ 発生時間
□どこで 発生場所、目標物、名称、確実な場所の通過時間
□誰が 遭難者氏名、服装、生年月日、年齢、職業、連絡先、
□どうしたか 滑落、転倒、落石、道迷い、溺れる、体調不良
□ケガおよび処置の状況
□状態 体温、呼吸、脈拍、嘔吐物、顔色、意識、自力歩行可能か
【感想と記録】
- 二つの自然条件、積雪と強風について充分な想像ができず、その対応と準備も足りず、実現可能性の低い計画で、反省点が多い山行になった。
- 提出した登山届にも記した当初の計画では、ツルネ東稜経由でキレット小屋前にAC設営、翌日は立場川を横断して阿弥陀岳南稜に取り付き、阿弥陀岳から赤岳を経てキレット小屋前ACを撤収、主稜線を南下して旭岳・権現岳・編笠山縦走という欲張ったものだった。
- 結果としては、アプローチ途中で積雪でトレースの消えた一人ラッセルとなり、ツルネ東稜は当日中に登り切れず稜線下部でサイト宿営、計画を変更してサイトに荷物を残して、ツルネ経由赤岳または権現岳往復に向けてアタック開始、ひたすらラッセルしてツルネ頂上まで登ったものの、時間が足りないことや、主稜線の強風に耐えられないと判断して、同ルート下降、下山することになった。天気が二日とも快晴だったのは幸運だった。
- 荷物が重すぎた。荷物が重いことを当日、家を出るときに知る。それでは遅いので、前々日までにパッキングを済ませ重量を確かめること。重ければ減らす、減らすことができなければ計画を変更する。昼に美し森駐車場を出発していては、ラッセルが少なくても、ツルネ東稜を上がってキレット小屋前にはたどり着けない。前夜発で家を出て、早朝に美し森駐車場を出発しても、時間的にも体力的にも難しいかもしれない。となると、最初からこの計画には無理があった。ようは、アプローチに二日、必要だったのだ。しかしそうなると一日分の食糧が増え重量が⋯⋯
- 出合小屋の前で、大荷物の単独行の若者に前を譲る。今日は小屋前付近にサイトするというので、こちらは先を急ぐ。
- 出合小屋の中は快適そうだった。中でテントを張るらしい。ここに小屋がある理由がよくわかる。一日登って下ってきたら、ここで泊まるのがいちばんだ。
- ワカンをアイゼンに履き替えて、ツルネ東稜に取り付いて急な尾根を登っているうちに日が暮れそうになる。ここまでか。傾斜の緩い地点にテントを張る(17時)。
- 持ち上がった水は2ℓ。それでは当然足りず、雪から水を1ℓほど作る(鍋に雪2杯分)。明日のアタックに向けて必要な装備、食糧などをサブザックに詰める。
- 夜間はマイナス15℃くらいか。21時には厳冬期用のシュラフに入って眠ろうとするが、寒くて眠れず、起きては防寒の対策をする。まず、背中が寒いのでエアマットを膨らませるため空気をできるだけ入れる。シュラフの底に着替えを敷く。足先が冷たいので予備靴下を履き、膝にはサポーターを巻き、シュラフの足先をメインザックに突っ込み、シュラフカバーのかわりにツェルトを被る。ほかにもあれこれやるがそれでも寒く、指先が冷たいままなので恐怖を感じ、0時前にはコンロを取り出して、コンデンスミルクを溶かした糖分マックスのお茶を作って飲む。白金カイロに点火して、低温やけどにならないように腰につける。この二つが効いたらしく、以降は眠れたようで、気づいたら4時の目覚ましアラームが鳴った。シュラフとツェルトの間に置いてあったポリタンの水は半分、凍っていた。
- 4時起5時発予定だったけど、ヘッドランプつけて登高する気にならず、また、テント撤収とメインザックのパッキングに手間取り、出発は5時半になる。快晴無風なのはありがたい。それでもアウターの中に薄手のセーターを着ている。
- トレースは週前半の風雪で埋もれ、ひたすらラッセルを続ける。8歩進んで、8歩分休憩。心拍数が高止まりして無理な登高を続けると疲労が蓄積してしまうので、こまめに脚を止めて心拍を下げる。1時間に一回は糖分補給。
- 赤岳や権現も間近に見えて迫力を増し、だいぶ高いところまで来た、主稜線はもうすぐだろうかと高度計を見ると半分も来ていないことに愕然とする。高度計が現実を教えてくれる。赤岳往復は無理、権現も難しい。旭岳往復なら可能か。あと1時間くらいと思う場所で、ヘルメットにGoProモドキを装着して撮影開始。
- 主稜線に近づくにつれて風がうなりをあげている。おそらく稜線上は強い風が吹いているだろう。サングラスをゴーグルに変える。
- 主稜線に出た途端、風速20m超と思われる東側からの強風に叩かれる。クラストした雪面でツルネ頂上付近は岩が剥き出しで雪は飛ばされている。上下の服はその風でも寒くはないが、問題は目出帽。ゴーグルをすれば顔を完全に覆うタイプのものではなく、隙間ができるセパレートなものだった。今回の装備の最大の失敗は、厳冬期用の目出帽を持って来なかったことだ。行動できないことはないけれど、この強風下では1時間もすれば、口元や鼻先が凍傷になってしまう。ツルネの頭を踏んで終了。1秒も留まらずそのまま下山開始。大快晴で気温も上がってきているのに残念。
- ACにデポしたメインザックを拾って背負い同じコースを下山、美し森駐車場までは重荷で遠かった。そして午後を回って風も出てきた。林道歩きは汗だくになるものだけど、今回は寒かった。
- 冬の清里駅前はどの店も閉まっているし、コロナ下で飲食は憚られるので、自販機でホットコーヒーやジュースを飲みながら余った食糧を食べる。
- 帰りの電車では、すべて指定席となった特急には乗らずに鈍行を乗り継ぐ。『北八ッ彷徨』(山口輝久、創文社アルプ選書)をぱらぱらと読む。55歳を超える歳になって「富士見高原の思い出」がもつ重い意味に気づく。戦中戦後すぐ、まだ確実な治療のない結核の、長い療養のうちに精神と肉体を蝕んでいく死の緩慢な浸食と諦念と抵抗とが拮抗し、そして快癒する可能性に触れたときの歓びが、その死と生が高原にあり、尾崎喜八もそこにいたのだと。そうした生死の歴史の風景のなかに八ヶ岳があるのだと。
- 22時帰宅。