南アルプス北部をワンウェイ・ワンデイで東から西へと横断するトレイルラン。
3回目にしてやっと完遂。
山行名
南アルプス横断トレイルラン
日 程
2010年9月10日-11日
山 域
南アルプス北部
ルート・行 程・概要
JR中央本線・長坂駅から、甲斐駒と仙丈を越えて、JR飯田線・駒ヶ根駅まで走っていくというワンウェイ、そしてワンデイのトレイルラン。
距離61km、最大標高差2500m弱、スタート21時。タイムは22時間16分。
自分の場合は歩き混じりになったので、実際のところはトレイルランというより強歩大会、カモシカ山行に近いかもしれません。
(9月10日)
21:00 JR中央本線・長坂駅
↓
22:40 甲斐駒ヶ岳神社
↓ 黒戸尾根
(9月11日)
04:39 甲斐駒ヶ岳
↓
05:54 駒津峰
↓
07:13 北沢峠
↓
09:13 小仙丈ヶ岳
↓
09:55 仙丈ヶ岳
↓ 地蔵尾根
15:10 市野瀬(伊那里)
↓ 秋葉街道
16:33 49号分岐の峠
↓ 49号線
19:16 JR飯田線・駒ヶ根駅
(その日のうちに帰る交通手段がなくなったので駅前ビジホに泊まって翌早朝に帰宅)
地 図
山と高原地図
2万5千分の1地図
その他、ネットで調べて書き込んだものなど
実際のルート
参加者
ゴント単独
天候・気象
快晴。台風一過で気温も下がったが、それでも9月にしては暑い。
装 備
□帽子
□行動用半袖(ロード部分)
□行動用長袖(山岳部分)
□行動用タイツ+パンツ
□靴下
□下着
□ショートスパッツ
□トレイルラン用シューズ
□ヤッケ
□レスキューシート
□雨具
□小型ザック
□ヘッドランプ
□手持ちの小型ライト
□ハイドレーションパック2リットル用
□ポリタン1リットル
□メガネ
□メガネバンド
□予備電球
□予備電池
□地図・ルート図
□高度計付時計+コンパス
□バンダナ
□ティッシュ
□キネシオテープ
□ガムテープ(50cm分)
□笛
□クマ鈴
□小型ナイフ
□ライター
□記録用デジタルカメラ
□計画書(+予想コースタイム/列車時刻表)
□ペン
□若干の医薬品(バンドエイド、キネシオテープなど)
□下着含む着替え一式
□お金
□携帯電話
□保険証
□jRO日本山岳救助機構会員証
食糧・水
□おにぎり 3個(1個余る)
□菓子パン 2食(0.5食余る)
□アミノバイタルゼリー 小7(1個余る)
□飴 15個(8個余る)
□予備食 カロリーメイト×2(食べず)
□ハイドレーション 2L(薄めたアクエリアス粉末入)
□アクエリアスのボトル 500mL×2
□(市野瀬に下山後のロードで350mlジュース4本購入)
アクセス
JR中央本線長坂駅に20時半過ぎに着く普通列車
季節について
9月も中旬すぎると日が落ちるのが早くなるし稜線では雪が降ることもある。その前、8月下旬から9月上旬がベスト。
9月の3000m級の山は侮れない。8月とはまったく違う。
激しく疲労するなかで低温・強風・氷雨に遭えば命にかかわるので慎重に。
人によっては手先が冷えるので手袋があったほうがよいかもしれない。
計画、トレーニングについて
1回目は日野春駅からスタートして、甲斐駒を越えたものの、仙丈ヶ岳で時間切れで引き返した(2006年08月29日の「南アルプス・甲斐駒-仙丈トレイルラン(JR日野春駅-黒戸尾根-甲斐駒-北沢峠-仙丈ヶ岳)」を参照)。
2回目はその数年後に同じ時期に黒戸尾根を登りだしたところで体調不良のため断念した。トレーニング不足、オーバー体重、弱い志。登るのにふさわしくない人間だと、山に拒絶されたような気がして悲しかったが、当然だと思った。真摯に向き合わないと山は門前払いする。
そして今回が3回目の挑戦。
3月の東京荒川マラソンに合わせてトレーニングしていたのだけど、強風で大会が中止になってしまい、目標を失ってしまった。その後、食べ過ぎてしまい、急激に太ってしまう。これはいけないとダイエットを開始したあたりから、今年は、あの宿題を片付けようと思い、目標にした。いつかは片付けなければいけない宿題だ。
1回目の挑戦の時が時間切れだったので、単純に考えればスタート時間を早めるしかなかった。そう簡単に走力がアップすることはない。黒戸尾根を登って甲斐駒頂上に出ても真夜中だったらスピードが出ないし危険も伴う。ならば天文薄明が始まって星が消える時間に甲斐駒頂上に到着するようなスタート時間を考えて、21時スタートにした。結果的には、あと2時間早くして19時にしていれば、と思うけれど、その日は仕事だったし、夕方仕事を終えてから出かけたのでいたしかたなかった。21時スタートしかなかった。
今年の夏は暑かったけれど、7月、8月と気合いを入れて炎天下を走った。坂ダッシュのトレーニングも入れて負荷をしっかりかけた練習も行ったし、9月に入ってからは、ハセツネの練習会に出て、三頭山から御岳山まで走ったりもした。さらに5kgのザックを背負って走る練習もした。あとは、決行日。
9月中旬の連休は人が多いので避けたい。何か不測の事態があると一日延びるかもしれないし、土曜着の10日になった。
3回目は成功させたいと思った。富士登山競争でも、3回目にして8合目の関門を突破して、ようやく頂上に行けた。この宿題も今回で決着を付けるぞ、やるからには最後までがんばろうと、強い意志で臨んだ。
行動メモ
長坂駅から駒ヶ岳神社
長坂駅に着いて、駅前で準備をし、充分に給水する。気温は22℃ぐらいだろうか。都心に比べれば充分に涼しい。それでも黒戸尾根の取り付きまでのロード部分は半袖でないと暑い。ヘッドランプを点灯、スタート。荷物はできるだけ軽量化を心がけたものの、走るには重い。食糧を軽いものだけにして、装備を最新にして徹底的に軽量化すれば2kgぐらいは軽くなるかもしれない。
ロードは少し登りも出てくるがほどなくして下りに。川に降りて橋を渡り、対岸の駒ヶ岳神社のある方向へと登っていく。外に出てる人はいないし、車の交通も少ない。もくもくと進んでいく。登り坂なので汗がダラダラ。
駒ヶ岳神社手前の駐車場近くに入山届のポストがあるはずなのだけど、見えずにそのまま通りすぎて神社まで来てしまった。探しに戻ろうかと思ったが、車で仮眠している登山者もいそうで、ライトで照らして探すのも悪いと思い、橋を渡った先の看板の下に登山届を置いて石で留めた。神社前でおにぎりを食べる。体調は良好。
黒戸尾根から甲斐駒ヶ岳
クマ鈴をつけて黒戸尾根を登り出す。尾根の前半は熊が怖いというより、暗い深夜の林のなかを一人で動いていることがなんとなく怖い。沢のほうから、得体のしれない動物の短くて激しい遠吠えが聞こえる。人間の女性の悲鳴に聞こえる。鹿の鋭い鳴き声でもないし、猿のギャーギャー言う声でもない、トラツグミの幽き声でもない、もっとゾッとする連続音。こんな夜中に登りに来るな、という動物の警告音なんだろうけど、ほんとうに心臓に悪い。冷や汗がどっと出る。2回目の時もこの「闇からの叫び声」は聞こえた。
ヘッドランプの光がまぶしくて地面の凹凸が見えにくいので、ハンドランプだけに変えて、もくもくと登っていく。「刃渡り」を越えると、少しガスっていた空はいつしか快晴に。高度が上がっている。振り返れば街の灯が見える。なんとなく道が明るく見えるなと思ったら、星明かりだった。銀河が耀いて流れている。登れば登るほど稜線らしさが際だち、暗い樹林の恐怖は消えていく。
傾斜が増して梯子が連続し、呼吸を整えるために何度か立ったまま休憩を入れて、3時前には七丈小屋に着いた。間違ってテント場の奥のほうに歩いていってしまったので、ツェルトを張って眠っていた登山者を起こしてしまったかもしれない。ごめんなさい。
毎度のことだけど、ここまで来たらあと少し、と思ってしまうのだけど、少しのわけがない。ここから激しく疲労し、スピードは落ちる。休んでは星空を見る。ちょうど夏の大三角形のはくちょう座の十字が、西の地平線に突き刺さるように傾いている。一方、東にはオリオンが高くあがり、その下にはシリウスが耀いて昇ってきている。もうすっかり秋だ。
風が出てきたので長袖を着込む。8合目の先あたりで、後ろからヘッドランプがついてくる。かなり早い。小屋の早出の人? ツェルトの人かな? 先を越されるのも癪なのでラストスパートして頂上に。前より1時間ほど短縮できた。この貯金は大きい。
甲斐駒ヶ岳から仙丈ヶ岳
少し休んで、後続者の方とちょっと話して、自分は先を急ぐため頂上を後にして、摩利支天方向へと白ザレのツヅラ折れの坂を降りていく。昼なら駒津峰へ続く稜線をそのまま降りてもいいのかもしれないが、急傾斜の白ザレでスリップはしたくないので大事をとって巻き道ルートを行く。途中、風が寒くて雨具、手袋をするが、小走りで降りていく間に暑くなって脱ぐ。
北沢峠へ向かう途中で夜はすっかり明けて、明るくなる。ゴロゴロした岩の多い登山道なのでかっ飛ばして走ることもできない。北沢峠の山小屋から甲斐駒目指して早出の登山者が次々に登ってきてすれ違う。
北沢峠まで1000m高度を落とす。思ったより時間がかかり、時間の貯金も消えてしまう。峠はバスから吐き出された登山者でいっぱいだった。トイレも数珠繋ぎで並んでいる状態。ここで15分ぐらい休憩して最後のピーク、仙丈に備える。だいぶ足腰が痛んできた。左腰には大きな湿布を二枚貼ってあるけど、もうあまり効いていない。大きな段差を下る時は注意しなければ。最初に北沢峠に来た時は、もっと疲れていたような気もする。おにぎりを食べ、アクエリアスで流し込むけど、どうも胃の調子が悪い。固形物も、濃い味の水分も、胃が受け付けなくなってきている。飴も気持ちが悪くなる。あとはゼリーと水分だけでなんとかしないと。
小仙丈に向けて登り出す。途中の水平な尾根はできるだけ小走りする。北沢峠からの登山者がたくさん先行しているので、すこしずつ抜かせてもらう。ここで再び時間貯金を考え、休まずに小仙丈まで上がった。
呼吸は荒く、苦しい。それでも空は快晴、すばらしい展望だ。ここで3分休憩し、息を整えてから仙丈に向けて水平になった稜線を走り出す。正真正銘のトレイルランができる区間は小仙丈から仙丈までの間だけど、高度のせいか空気が薄く足が上がらない。こういうときに躓いて膝を打ったり、手を前についたときに突き指するといったケガ(富士山お鉢巡りランの時)をしがちなので、充分に注意しながら走る。仙丈の登りは当然歩き。最後のカールの稜線に出てからもう一度走ろうかと思ったが、足が上がらない。前からトレイルランナーが一人、快調に飛ばしてくる。この高さでよく動けるな……こちらはトボトボと歩いて仙丈ヶ岳頂上へ。
仙丈ヶ岳から地蔵尾根、市野瀬
前回の到達地点を越えて地蔵尾根を下れそうだ。来た甲斐があったし、自分は遅いなりにも前よりも成長しているんだ、と思う。設定時間通りならば充分に間に合う。しかし、疲労が激しく、座っていても呼吸が元に戻らない。風の当たる場所では寒いし、場所を移動して風の当たらない場所に座り込むと今度は暑くて気分がすぐれない、どうにもこうにも居心地が悪いので、ここも3分ぐらいで降りることにする。地蔵尾根に入って降りた先に見える乾いたザレ場で15分ぐらい休もうと思ってゆっくりと降りていく。
仙丈小屋への道を右に分けて、地蔵尾根分岐の注意看板の前を通る。未知の尾根。はるか遠方まで尾根が続いている。伊那山脈手前の三峰川の低いところまで降りる、その距離感がつかめない。それでも時間は残っている。大丈夫だ。尾根を下りだす。踏跡はしっかりしているけれど、トレランに充分なほど踏まれていない。30分ぐらい降りたところで大休止。食糧、水分補給。足を捻挫しそうなので、靴紐をきつく締め直す。足先が当たって痛くなるのは避けたい。ストレッチしてほぐす。クマ鈴も再び付ける。このときは、登山道を走って下って、コースタイムの半分、3時間半ぐらいで降りられる、などと思っていた。疲れで休みが多くなっても4時間半で済むはずだ、と。しかし実際には尾根の上半分は疲労が強くて走ることもできず、かなり頻繁に休んだ。結果、5時間超かかってしまった。これでは普通に歩いて下っているのと変わらないかもしれない。
丸い尾根の赤みがかった岩のザレ場を下っていくとハイマツ混じりになり、森林限界が終わるあたりから尾根は二又に分かれ、その尾根の突端で北方向へ右折してジメジメした灌木帯を急降下する。ここから登山道は不明瞭になる。カラーテープ(主にピンク)に沿って下れば問題ないけれど、この道で大丈夫だろうか、と、何度も地図をにらめっこして現在地を確認することになる。自分の場合はスピードが落ちてきて地図と自分の位置との関係がズレていき「まだここ通過してないんだ、遅いぞこれは」と思うことが増えていった。下れば下るほど道はゆるやかになり、苔むした樹林の素適な小径となって、トレランしやすくなっていく。時々、踏跡が不鮮明になるけれども、不明になるほどではない。松峰小屋の先で、クマ鈴の音が前方から近づいてきた。単独行の方だった。よい尾根だけど、お互い先が長いですね、という話をして別れる。
前半、休んでセーブして疲労が抜けてきたので、後半は小走りしていく。落ち葉がクッションになって足にもやさしい。開けた明るい樹林の下、草地の走りやすい下りの傾斜なのでどんどん進んでいけるが、それにしても似たような風景と傾斜が続くので飽きてくる。まだ松峰を巻いている箇所なのか、どこまで続くんだろう、そんなふうに考えつつ時間の計算をする。どうも地図の破線と実際に動いてる位置が違うような気がしてならない(*)。途中で地図にない林道に繋がって走りやすくなり、さらに速度をあげて遅れを取り戻そうとスピードを上げてみる。それでも、行っても行っても柏木に着かない。あぁ、これは無理だ、遅れは取り戻せないことを理解する。もう足が上がっておらず、何度も躓きそうになる。気温が上がってきて暑いので、タイツを脱いで、短パンだけになる。
* 帰ってから、ブログを書こうとネットで調べたら、地蔵尾根末端の林道を調べたという地図を見つけた。ありがたい。こうなっていたのか!
地蔵尾根末端の地図@khaatioさん
地蔵尾根の末端付近、柏木集落の上に「孝行猿」の碑があった。猿の石像なのか、自然石なのか、なんだかよくわからない物体が碑の上に3つ乗っている。いつもだと、碑の文面をデジカメで撮影して、後で戻ってから拡大して判読したりするのだけれど、急いでいることもあってサッと見ただけで下ってしまう(*)。
*「孝行猿」はこの土地に伝わる民話で、漁師に獲られ死んで吊された母猿を小猿がけなげにも助けようとし、その姿を見た漁師が供養をしたというもの。先住民と入植民の関係に言及しているように思える。時代は定かではないが、先住民は次第しだいに山奥に追い上げられていっただろう。柏木から松峰の間は、平坦で明るく、とても気分のよい高原状の場所だった。ここに住んでいたとしてもおかしくはない。また、登山道は深く抉られて窪んでいて、古い時代から登られていた道のような気がする。このような道は竹宇の駒ヶ岳神社の上にも続いていた。仙丈ヶ岳へ続く、すでに失われた古い信仰登山があったのではないだろうか。伊那谷から見る仙丈ヶ岳は大きく、人々を魅了する。「孝行猿」の石碑は、そうした古い記憶をかすかに留めているものなのかもしれない。
暗く蛇行する登山道がふいに明るくなり、柏木集落の草地に飛び出した。まだ日も高く暑い。急に疲れが出て走る足を止めて歩き出してしまった。右手に樹齢数百年はあろうかという樹があって、曲がりくねって分岐した重い幹を丸太棒で支えている。この樹はなんだろうか、柏木だから柏だろうか? わからなかった。
その樹の脇を降りていくと「孝行猿」の看板が出ている。ここから車道になる。
地図を見ながら工事用ダンプが通るジグザグの林道を歩いたり走ったりで降りていく。川床面からはまだ充分に高い位置にあり、降りるのに時間がかかる。降りて橋を渡って旧道に入れば伊那里のバス停前になる。
郵便ポストのある家の軒先の自販機で甘いジュースを2本続けて購入して飲み干す。日陰が涼しい。助かる。タイムを計算すると、これから峠を越えて駒ヶ根駅まで行けば、今日中に家に帰り着かないかもしれない、と思う。ならばもうここからバスに乗って高遠経由で帰ってしまってもいいのではないか、ふと、そういう気持ちになる。いや、しかしそうしたらまたこの横断チャレンジをしなければならない。これをもう一度? もう一度はない。今日は快晴だったし、こんなチャンスはこれが最後だ。目的は駒ヶ根駅まで走りきること、時間はどうでもいい。そうだった。携帯の電波が入るので、安全地帯に降りたことを家に連絡し、本日中には帰れないかもしれないと告げる。あとは途中でまた連絡するとして、もう一本ジュースを買って飲みながら秋葉街道沿いに歩きだす。
市野瀬(伊那里)から駒ヶ根駅
秋葉街道は傾斜はあるものの午後をまわって太陽は西に落ち、道沿いは日陰になっている。これでまた走り出すことができた。分杭峠の「ゼロ磁場」観光用のシャトルバスを横目にみながら、パワースポットならばもっと身体が軽くなってスイスイと坂道を登れてもいいのに、と思うが、逆に傾斜が増して歩きになってしまう。どうも自分には「磁場産業」が効かないらしいので、自力で歩いていくほかない。磁場産業も南アルプス横断もさして変わらない気持ちの強さ(?)が支えている。一人、自転車族がギアをカリコリ言わせながら追い抜いていった。思ったよりも標高差が堪える。疲労をきちんと計算に入れておく必要があった。1時間弱で登れると思っていたけれど、実際には1時間20分かかった。
峠からは駒ヶ根まで県道49号(駒ヶ根長谷線)を一気に下っていくだけだ。だけだ、と書いているけれど、そんなに簡単でないことはすぐにわかった。下りでもスピードが出なくなっていた。そして暑い。日は暮れようとしているけど、気温は夏のそれで、汗びっしょりになってしまう。そこかしこが痛くなってくる。地図を見るとなかなか進んでいかない。気落ちしてしまい、歩く。再び走る、歩くを繰り返す。ただまっすぐ走っていけばいいだけなのに、なぜこんなに遅いのか、まさか道を間違ったのではないかと気になって、何度も地図を見直す。間違ってはいない。
日が暮れようとしていた。車はヘッドライトを点け、電灯が道を照らす。電灯のないところは走るのに不安を覚える暗さになってきた。ザックからすぐにヘッドランプを取り出せるようにしておく。道の先には、駅前の明るい商店街の灯が見えるものだとばかり思っていたのだけど、そんなものは見えない。天竜川の向こうは岸は暗い。なぜ暗いのだろう? しかも圧倒的に遠い。ほんとにこの道でいいのだろうか? こんなに遠いだろうか? こんなところで暗闇になって道に迷うなんてまずいぞ。急に気持ちが張り詰めてくる。道は間違ってない、遅いだけだ、自分の認識が間違っているんだ、気付けオレ! 完全に日が落ちてしまう前に川を渡ろうと急ぐが、橋を渡る前に18時半。最終バスにも最終列車にも間に合わないことが確実になった。携帯電話で家に連絡し、間に合わなかった、明日帰ると告げる。どうやって帰る? そんなのは着いてからでいい、今はゴールを目指せ。
川を渡れば、今度は傾斜のある登り坂が続く。このあたりで完全に日が暮れてしまった。ここからこんなに登っているとは思わなかった。完全に読み違えていた。水平ですぐだと思っていた。駅のある場所は河岸段丘の上で、下の段から上の段は影になって見えないのだし、駅前だからといって明るいとは限らない。日本全国ロードサイド郊外型の世界になっているのだから、駅前よりも幹線道路沿いのほうがよっぽど明るい。
トボトボと真っ直ぐ行く。琴平町の交差点にぶつかって、ようやく駅が近いことが実感できた。あと少しだ。当初の予定ではここで左折してスーパー銭湯に寄って汗を流してから駅に向かうはずだった。交差点からいくらか距離があるので見えるはずもない。今はゴールの駒ヶ根駅が先。線路を渡って右折、やっと駅舎の入口。これで完遂だ。予定よりも遅れて、後半は歩き混じりになったけれど、ともかく強歩、完歩した。これでいい。22時間16分行動。これは九州大村湾160kmのマラニックに次ぐ行動時間だった。
帰宅
着いたはいいが、さてどうしようか。駅前ビバークする気にはならなかった。ちょっと疲れすぎていた。駅前にも銭湯があるらしいので、行こうかと思ったけど止めた(電話で確かめてないので本当にあるのかわからない、銭湯は廃業が増えている)。駅舎内の駅前案内図を見て、高速バス発着所の前にあるビジネスホテルに泊まることにする。登山姿だと嫌がられるかと思ったけど、問題なかった。すぐにチェックインし、シャワーを浴びて着替えた。あー気分爽快。打ち上げ用の麦水を空けて、一心地。急に腹が減ってきた。今日は後半、固形物を胃に入れていない。外で何か食べてこよう、そうだ、ソースカツ丼食べよう、まだ店やってるかな? と思ったのは覚えている。気付いたら朝だった。そのまま横になって眠っていた。筋肉痛はそれほどでもない(そのときは!)。腹が減ったので外で食べようとチェックアウトするも、駅前は早すぎてどの店も開いていない。ソースカツ丼は夢と消えた。ホテルでトーストの無料サービスがあったのはそのためだ。まいったな。朝の駒ヶ根の町を適当に散歩する。歩くとけっこうダメージを受けてるのがわかる。駅前の商店街にはコンビニもないのでアミノバイタルゼリーの余りを飲む。〆でご飯が食べられないのは残念だけど、さぁ、終わったことだし、帰るか、やることはいろいろある、ということで7時過ぎの高速バスで新宿に向かった。
再挑戦?
ソースカツ丼のために(?)もう一回、はあるかもしれませんが、今の実力では楽しめるレベルになっていないのは明かです。また、次の横断ルートを探してチャレンジしようと思っています。
また、駒ヶ根から市野瀬、地蔵尾根から仙丈というルートは、TJAR(トランスジャパンアルプスレース)の逆コースになるのですが、これは意図的にトレースして研究しようなどという、だいそれた気持ちがあったわけでなく、まったく偶然です。最初の横断後にネットで調べていたら、地蔵尾根が登りのルートになっていたのでした。それにしても、たった一日でこれだけ疲労するというのに、TJARは毎日同じことをする、あまり睡眠もとらないまま、しかも気象条件の悪い山岳のなかで一週間も繰り返すというのだから、装備や露営テクニックだけでどうにかなるというものじゃないと思いました。特に暑いロードはつらいでしょう。
今回、自分は22時間以上かかりましたが、早いクラスなら半分ぐらいの10時間で行けるかもしれません。7時に長坂駅を出れば、17時に駒ヶ根駅に着く(!)というわけです。誰かチャレンジしてみてください。
横断シリーズについて
ドーンと出発してワシワシと尾根を登って、山の稜線をかっ飛ばして越えて行き、向こうの谷にタッタカ降りていってゴールする。
シンプルです。
「もう自分のほうが昔からやってるよ」という方もたくさんいると思います。
やってない方は楽しいのでぜひやってみてください。
「トランスがあるならトラバースがあってもいいじゃない」です。
自分のなかの基準はこんな感じです。
- 車を使わず列車を利用する
- できればバスも使わない(特にスタート時間にバス便がない)
- 駅から山を越えて横断し向こう側の駅に降りる
- オプション
- ビバーグなしにその日のうちに帰れる前夜発二日行程
(金曜夜出で土曜には帰れる、自分の体力的な問題もあってそれ以上は厳しい) - 降りたら銭湯 (^_^;
- ビバーグなしにその日のうちに帰れる前夜発二日行程
自分が最初にトラバースを意識して行ったのが、八ヶ岳大横断(JR中央線茅野駅→御柱街道→美濃戸→御小屋尾根→阿弥陀岳→赤岳→真教寺尾根→美し森→JR小海線清里駅)でした。今から思うと大横断、なんて恥ずかしい。単に横断、赤岳登山です。普通の登山との違いは、茅野からロードを足で走って美濃戸まで登ってしまう、というだけです。ただ、戦前、戦後の昭和30年代までは駅からの登山は普通だったと思います。まだバス路線も充分に整備されていない時代、夜汽車で行って山の麓の駅で降りて、暗いうちから山まで歩いて稜線を踏んでそのまま歩いて夕方汽車で帰る、そんな時代の健脚の山行記を読んだ記憶があります。それをずっと覚えていて、自分だってやればできるんじゃないかな、と漠然と思ってました。今だって車使う人は夜討ち朝駆け深夜帰りで翌日もがんばってお仕事、なんて人も多いでしょう。
横断シリーズはまだまだおもしろいルートを引けると思います。北アルプス(南部・北部)は距離があるのでかなりハードでしょう。最終地点はバス停にならざるを得ないかもしれません。ルートの美しさ、シンプルさで決まってくると思います。南ア南部、中央アは踏み込んだことがないので未検討です。関東周辺なら奥秩父はすでに走った方も多くいると思います。東から西への場合、金峰山や瑞牆山、小海線へとどう繋げて降りていくか、ライン取りが気になりますし、思ったよりずっと長いと思われます。
山ばかりでなく、海岸から海岸への半島横断もあるでしょう。また、ビバーグを予定してダブル横断、トリプル横断も。縦横無尽に大周遊トレイルランもあるでしょう。あ、これはハセツネが実際にそうですね。登山道を走るだけでなく、沢や岩を組み合わせたり、泳いだりもあるでしょう。自転車、スキー、カヌーやパラグライダーを使ったり、ともかく人力で楽しむことは無限にあると思います。
スピードはありませんが、これからもおもしろいルートを作ってみたいと思います。
GONTさん
驚異の目標達成おめでとうございます。♪♪
入念な準備とトレーニングの成果♪♪
綺麗な写真と緻密な記録も素晴らしいですね。
スタート前には仕事をされて臨まれたのですね。
一番気になるのは靴ですが、トレイルラン用ですか?
軽登山靴でしょうか?
ありがとうございます。
フルマラソンと山登りで足の強い沼さんなら、
同じぐらいの時間で抜けられると思います。
あとはもくもくと登下降する……という感じです。
靴はトレラン用の靴ですが、下りの道が悪い場合は、
ソールが固い、しっかりしたトレランの靴でないと
足底や足首を痛めると思いました。
自分は特に、ロードで足底がやられてしまい、今も少し痛みが残っています。
今回、靴下を二枚履きにしたところ、衝撃が和らげられたので、
ハセツネでもいくつか工夫してみようと思っています。
GONTさん
タフですね。
夜一人で山道を歩くのは本当に不安ですよね。
予定通りの時間で行けなかったのは残念でしたが
無事完走でしたのはさすがGONTさんだと感じました。
昨年、駒ヶ根に観光に行きましたが、ソースかつ丼は
うまかったです。
次回はぜひとも食べてください。
コメントありがとうございます。
ソースカツ丼食べたんですか!?
いいなぁ・・・
ますます食べたくなってしまいました。
それにしても走った後のご飯はおいしいので
これからも走った後のおいしいご飯と麦水目指して(?)
山もロードも走っていこうと思います。
とても凄いことをやってますね。ちょっと嫉妬します。
登山にもトレランにも入りきれない新しいカテゴリーではないですか?
ケテゴリーなんてどうでもいいことですが、人がその意思でやろうと思うことをやってしまえばいいのでせう。
実は、私は横断ではなく、山小屋を最大限利用しながら日本海から北アの最南端まで走りたいな、と考えておりました。
まず、明日からですよね、雁坂峠越え秩父往還、
Fooさん、サポランさんと一緒に、がんばってください!
あぁー自分も100km超のロードに耐えられる足をちゃんと作りたいです、
来年こそは……自分もエントリーしたいっす。
今回の南アルプスは、カモシカ山行という感じになってしまいました。
トレランの足の早い人は、もっとスマートなやり方やコースを好むかもしれません。
山に強い人は、もっとどっぷりと山につかって、じっくりと歩いていくかもしれません。
松ちゃんさんに提案、今度「鋸岳」入れてやってみませんか?
岩っぽいところは、ロープ使わないにしても、
やはり経験者とパーティ組まないと怖いな、と。
北アなら、北鎌、も考えます。今度、ご相談します。
親不知〜はおもしろそうですね。だいぶ距離がありそうですが、
これをやったらすばらしいと思います。
脅威のトレランレポートですね、熟読させていただきました。
夜の黒戸尾根をひとりで歩くなんて考えられません、GONTOさんだからこそできることでしょう!また、ゆっくりお話を聞かせてください。
昨日は自宅をスタート、ゴールにして黒目川から空堀川へ多摩湖自転車道から多摩湖周回してまた多摩湖自転車道を起点まで走り自宅へと38kmのランを楽しみましたが終盤は軽い熱中症になってムカムカして吐きそうでした。今頃は雁坂のレースを走っている方もいるんだろうなと思いながら帰宅しました。
多摩湖周回コース、長い距離の練習がコンスタントに続いているようで、刺激になります。
今回の連休は9月にしてはかなり暑かったようですね。
雁坂も大変だったようです。