未知と既知との遭遇

辺境・探検・冒険ブログ MBEMBE ムベンベ::ある天才編集者の死.

知り合いの装幀家さんに高野秀行氏の『怪獣記』を教えてもらい、ムベンベも文庫で買い求めた。

知らない世界、未知にグイグイ迫っていくバイタリティが本から放射されている。それに呼応するように、内側からも未知への憧憬が湧き上がってくる。

ドキュメンタリーでもなく、旅日記でもない、エンターテイメントに偏りすぎてもいない、このバランス。感心する。

こういう本はどうやって作られるのかな、と思っていたんだけど、名編集者がいたんだな、ということを知る。

未知への旅によって、未知が既知になる、その結果、旅人の心の内側の既知が未知に変わる。なぜか? と。

その未知の鉱脈を発見してくれるのが編集者であり、編集者は鉱山の鉱夫のごとく、心の坑道に降りていくのだ。著者本人と一体となって、ツルハシならぬペン先でガンガン掘り進んでいくものだから、これは絶対に痛いと思うのだけど、そこから掘り出された原石をカットし、磨いて、宝石にする共同作業を通じて、人の心が未知から既知に、既知から未知へと揺れ動くその振動が宝石=本に保存され、複製可能になり、そのクオーツのような振動が多くの人に伝わる。

名編集者に発見される著者もまた、深くて厚い鉱脈をもった名著者だと思う。

出会ってくれてありがとう、とお礼を言いたい。

ところで、未知との出会いということであれば、こんなことがあった。

W大の探検部に助けてもらったのは、バンコクのトリブバン国際空港に降りたって右往左往してるうちにアヤシイ白タク業者に捕まりそうになっていたときだった。彼らは常宿があるそうで、そのホテルに一緒に泊まろうと提案してくれたのだ。たくさん泊まると安くなるのかは知らなかったけれど、はじめての海外旅行、しかもネパールでの超貧乏トレッキングで大荷物を抱えて困っていた自分たちにとっては、天の助けだった。

ほとんど同じような姿格好だったから丁度いいや、だったのかもしれないが……

「未知」を求めて旅を続けるおもしろい人たちがいるのだなぁ、すばらしいな、と思ったのを覚えている。

残念ながら、彼らがどこに探検に行ったのか、ムベンベの著者がいたのかどうかも覚えていない。

というのも、その後のネパールのトレッキングの印象があまりに強烈、というか、場所によっては苛烈であったため、記憶から薄れてしまったらしい。

もう20年以上も前の話でした。